協会長就任にあたって

会長 西 澤 敬 二


(2018.6.29)

日本損害保険協会会長就任にあたり、以下のとおり所信を申し上げます。

1.はじめに

西澤 敬二

 6月18日に発生した大阪府北部を震源とする地震でお亡くなりになられた方々へ謹んで哀悼の意を表しますとともに、ご遺族ならびに被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。
 地震発生から10日以上が経過し、ライフラインの復旧が伝えられていますが、被災地には大きな爪痕が残っております。
 損害保険業界といたしましては、確実に保険金をお支払いするよう引き続き取り組んでまいります。

2.環境認識

 世界経済は、着実に成長を続けています。国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」によれば、2018年、2019年の成長率は、いずれも+3.9%と予想されるなど、拡張的な財政政策や金融緩和政策を受けた設備投資、家計消費等の世界的な拡がりにより、高い経済成長が継続する可能性が高いとみられています。その一方で、緩和的な金融環境からの脱却に向けて、米国や欧州において段階的な金融政策の引き締めの動きが見られ、これに伴う金利の上昇が一部の国や地域の弱みを顕在化させ、世界経済全体が減速する恐れも指摘されています。
 我が国経済は、緩やかながら着実に拡大しています。政府によるさまざまな政策の推進や堅調な海外経済に後押しされ、企業業績は最高益を更新、雇用・所得環境も改善しています。2019年10月に予定されている消費税率引上げの影響に不確実性はあるものの、東京オリンピック・パラリンピック関連の建設需要等により内需が拡大し、潜在成長率を上回る成長が続くものと見込まれています。
 中長期的な観点では、少子高齢化・労働力人口の減少に伴う社会保障費の増加や、経済・社会の活力の低下への懸念など、我が国は世界に先駆けて待ったなしの社会的課題に直面していますが、別の見方をすれば、課題の克服につながる技術革新の一層の促進や社会制度の見直しといった変革が期待され、世界に範たる日本の未来を切り開いていく好機ととらえることもできます。
 こうした中、少子高齢化や国際共通課題への対応など、持続可能な社会の実現に向けた国際統一目標である「SDGs(持続可能な開発目標)」の達成に向けて、先端技術を最大限に活用し経済発展と社会的課題の解決を両立する超スマート社会(Society5.0)の実現や、強靭で環境に優しいまちづくりの実現をはじめ、官民をあげて幅広い取組みが行われています。6月15日には、「経済財政運営と改革の基本方針2018」と「未来投資戦略2018」が閣議決定され、日本社会・経済の中長期的な発展に向けた政策の推進が期待されます。

3.取組み方針

 昨年5月に当協会は創立100周年を迎え、大きな節目の年となりました。
 次の100年に向けて歩み始めた当協会は、「環境変化への迅速・的確な対応」、「お客さま視点での業務運営の推進」、「より強固で安定的な保険制度の確立」、「国際保険市場におけるさらなる役割の発揮」の4つの柱を定めた第8次中期基本計画を本年4月よりスタートさせています。初年度である本年度は、「持続可能な社会実現への貢献(SDGs達成への貢献)」、「技術革新の促進への貢献(Society5.0実現への貢献)」という2つの観点から、4つの柱に即した11の重点課題に対応する施策について、業界一丸となって進めてまいります。

 

(1)持続可能な社会実現への貢献

 当協会は、防災・減災、事故防止といったSDGsと関連の深い活動について、永年にわたり関係省庁、都道府県警、自治体、マスコミ等関係者の皆さまとの協働により取り組んでまいりました。
 少子高齢化、気候変動に伴う自然災害の増加、大規模地震の発生懸念をはじめとする環境変化に伴い、持続可能な社会の実現を下支えする損害保険業界に期待される役割は拡大しています。第8次中期基本計画を着実に推進していくために、損害保険業界が果たすべき社会的役割をSDGsの観点から見つめ直しつつ、具体的な取組みを実行してまいります。

(2)技術革新の促進への貢献

 自動運転、AI(人工知能)、ビッグデータの活用、シェアリングエコノミーの拡大など、デジタル技術は急速に進展しています。移動サービスの高度化や生産性の飛躍的な向上等が期待される一方で、サイバーセキュリティの確保をはじめとしたニューリスクへの対応や、各種法制度の整備等が課題となっています。経済発展と社会的課題の解決を両立する超スマート社会(Society5.0)の実現に貢献する観点から、具体的な取組みを実行してまいります。

4.具体的な取組み

(1)持続可能な社会実現への貢献

ア.自然災害等に対する防災・減災に向けた取組み

 我が国は、その位置、地形、地質、気象等の自然的諸条件から各種の災害が発生しやすい特性を有しています。昨年から本年にかけて、九州北部豪雨や台風21号による風災や水災、北信越の雪災をはじめ自然災害が大きな被害をもたらしました。短時間強雨の観測回数の増加や熱中症・感染症リスクの増加、農作物の供給の不安定化をはじめ気候変動の影響が顕在化する中、気候変動適応法が第196回国会で成立するなど、さまざまな主体が連携し取り組むことが一層重要となっています。
 当協会は、本年度も関係省庁や各自治体等と連携し、地域の特性に応じた防災・減災の取組みを展開してまいります。本年3月に開設した防災情報のポータルサイト「そんぽ防災Web」も有効に活用し、地域における取組みを支援します。また、子どもたちが活動の主役である「ぼうさい探検隊」の取組みを推進します。この活動は、子どもたちが楽しみながらまちにある防災・防犯・交通安全に関する施設や設備等を見て回り、安心・安全を考えながらマップにまとめ発表することで防災意識の向上を目指す実践的教育プログラムであり、本年で15周年を迎えます。

イ.大規模地震の発生に備えた取組み

 我が国は地震大国であり、首都直下地震や南海トラフ巨大地震等の発生が懸念されています。政府は、昨年9月に発生直前の予知を前提とした防災対応の方針転換を決定、昨年11月より警戒宣言に替わる防災情報として「南海トラフ地震に関連する情報」の発信に関する運用を始めました。この情報が発信された後の適切な避難方法や企業活動のあり方について、政府で検討が進められています。
 当協会は、各地における地震防災に関する啓発活動に取組むとともに、自助による経済的な備えとして有効な手段である地震保険の普及促進に努めてまいります。また、地震発生に伴う被災者の速やかな生活再建に向けて、大規模地震時に損害保険業界で行う共同調査の効率化策や損害査定の簡素化の推進策等を検討し、地震保険金の一層迅速なお支払いに向けて態勢を強化してまいります。

ウ.高齢者等の交通事故防止に向けた取組み

 高齢者の増加に伴い、交通事故死者数に占める高齢者の割合は50%を超えています。当協会は、高齢ドライバーや歩行者の事故防止に向けた啓発活動や事故多発交差点の周知活動を全国各地で行っており、引き続き、関係省庁、都道府県警、自治体、マスコミ等と連携し取組みを推進してまいります。

(2)技術革新の促進への貢献

ア.自動運転技術の進展に関する取組み

 世界各国で開発が進められている自動運転技術は、物流における人手不足の解消、地域における高齢者の移動手段の確保、交通事故の減少等の効果が期待できる一方で、事故が発生した場合の損害賠償責任については、従来とは異なる責任関係が生じる可能性があります。
 当協会では、有識者を交え検討を重ね、2016年に報告書を公表しました。その後、関係省庁における検討会に参画、意見発信を行ってまいりました。
 安心・安全な自動運転社会の実現に向けて、本年度も引き続き自動運転技術の最新動向に関する調査・研究を行うとともに、関係省庁や団体、消費者等との対話を通じ損害保険業界としての役割を果たしてまいります。

イ.サイバーセキュリティ等ニューリスクに関する取組み

 サイバー攻撃による被害が公的機関や企業等で頻発しています。攻撃手法の手口が高度化・巧妙化するとともに、攻撃技術に関する情報へのアクセスが容易になり、脅威が拡大しています。攻撃目的も金銭や情報の窃取、主義・主張の表明、テロ・破壊行為等多岐にわたっています。当協会は、サイバー攻撃の脅威をはじめとしたニューリスクについて調査研究を行い、損害保険業界全体の対応力を向上してまいります。

ウ.業務の共通化・標準化の取組み

 当協会は、お客さま利便の一層の向上や新たな価値の創造に向けて、代理店・保険会社の業務効率の向上に資する共通化・標準化の取組みを進めています。本年度は、新技術の基礎的研究や、その利活用の可能性について検討を進めてまいります。

(3)各種課題への取組み

ア.お客さま本位の業務運営に資する募集品質向上に関する取組み

 当協会は、損害保険募集人が更なるステップアップを目指す仕組みとして、日本損害保険代理業協会と共同で「損害保険大学課程」の教育プログラムを運営しています。同コースを修了した約11,000人が、当協会が認定する募集人資格の最高峰である「損害保険トータルプランナー」として全国各地で活躍しています。実践的な知識・業務スキルに裏打ちされた商品・サービス等のご提案・ご提供を通じて、より多くのお客さまにご満足いただけるよう、教育プログラムの受講を広く呼びかけてまいります。

イ.相談・苦情・紛争解決に関する態勢・機能の強化

 当協会は、お客さま対応の窓口である「そんぽADRセンター」を全国10か所に設置し、専門の相談員が損害保険に関する一般的な相談・苦情に対応するほか、保険業法に基づく指定紛争解決機関として、お客さまと保険会社との間のトラブルに対し、中立・公正な立場から苦情解決手続きおよび紛争解決手続きを行っています。本年度は、引き続きお客さまからお申し出のあった苦情の速やかな解決を図るとともに、お申し出内容に関する精査を通じて一層の態勢強化を図ってまいります。

ウ.保険金不正請求の防止に関する取組み

 損害保険制度が健全性を維持・向上していくために、当協会では、2013年に「保険金不正請求対策室」を設置し、通報窓口に寄せられた情報を不正請求対策に役立てるなど各種対策を実施してまいりました。本年度は、不正請求を防止するための新たなシステムの運用を開始するとともに、不正請求の手口等の知見や情報を収集し、不正請求の防止対策を一層強化してまいります。

エ.国際基準等への適切な対応

 当協会は、金融・保険のグローバル化や損害保険各社の海外事業展開が進む中、保険監督者国際機構(IAIS)や経済協力開発機構(OECD)等の各種会合への出席や意見照会への対応を通じ、国際的な規制の緩和や通商障壁の解消等に努めています。
 各国金融・保険規制の国際的な調和の必要性が高まる中、グローバルなシステム上重要な保険会社(G-SIIs)および国際的に活動する保険グループ(IAIG)に対する国際的な監督基準策定の動きが大きな節目を迎えようとしています。当協会は、本年度も引き続き、本邦保険業界の実態を国際基準に反映させるため、国際基準の策定プロセスに積極的に関与してまいります。

オ.新興国市場への各種支援の強化

 当協会は、東アジア諸地域に対する保険技術協力・交流プログラムとして、 1972年から毎年、日本国際保険学校(ISJ)を開催しているほか、自然災害対策や募集制度整備支援等を通じ、各国損害保険市場への支援を行っています。各国損害保険市場の健全な発展と成長に向けて、本年度も、関係省庁・団体との連携の下取り組んでまいります。

5.おわりに

 損害保険業界は、その長い歴史の中で、社会や環境の変化に伴い複雑化、多様化するリスクに対応する商品・サービスのご提供に努めてまいりました。
 今後は、急速に進展する技術革新、気候変動に伴う自然災害の増加、および大規模地震の発生懸念をはじめとする環境変化に着実に対応することで、安心・安全で持続可能な日本の未来に向けて貢献していくことが一層重要になると考えています。
 日本社会・経済を支える重要な社会インフラとしての役割を損害保険業界がしっかりと果たすことができるよう、協会長として一年間真摯に取り組んでまいります。皆さまのご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

以 上

2018年6月 就任協会長ステートメント